平成15年度 東北支部講演会 講演要旨
演題「人口減少下の社会資本整備と水環境」東京大学大学院工学系研究科 大垣眞一郎
1.はじめに
人口の話題は、「生めよ殖やせ」の富国強兵的議論、出生率低下による人類の滅亡論、など情緒的な議論に流れ易い。しかし、客観的な視点から人口減少問題を捉え、具体的な国土と社会の設計に向かわなければならない。
(社)土木学会の平成13年度会長提言特別委員会において、丹保憲仁会長(当時)の提案により、人口減少するわが国の社会の姿を検討し、社会資本整備のあり方とその方法を議論した。その後、幹事長としてとりまとめ出版する機会があったので、ここにその提言を紹介する。詳しくは参考文献を参照していただくと幸いである。
わが国の人口は、2004年から2006年頃にはピークを迎え、その後長い減少の時代を迎えようとしている。21世紀の日本で起きようとしている急速で長期的な人口減少は、世界で初めての経験である。この急速で長期的な人口減少の国全体へもたらす影響を把握することは、これからの日本の社会資本整備のあり方を考察するにあたり必要不可欠なことである。しかしながら、人口減少の速度、あるいは人口構成変化については諸説があり、さまざまな議論が起きている。高齢化、出生力の低下による少子化、労働人口問題、外国人移民問題、人口の空間分布(集中と過疎化)など、考察すべき論点は多い。ここに紹介する提言は、人口減少を社会資本整備のためのよりよい与件として受け入れられるためにまとめたものである。下に、その「提言」を引用して示す。
2.社会資本整備の選択と施策の融合へ
人口減少社会においては、人口の分布に配慮した木目の細かい施策の選択と各種施策の融合が必要となる。ここでは、私の専門分野の水環境の質と水供給について、限られた紙面の中で一例を示したい。
人口が著しく減少する小さい市町村が多く現れるであろう。そのとき、水供給の量と質の安全性を維持するためには、さまざまな工夫が必要である。高度な技術と機器を要する新しい水質基準の検査や高度な水供給システムの導入、保守管理・監査のための人材と財政的担保が必要なことはいうまでもないが、同時に、水道原水の流域の水環境の質を高めることによる安全性の確保の方が有効である場合もある。流域の排水処理施策や土地利用計画などとの融合が求められる。また、大都市でも人口構成に関わる様々な変化の兆しがある。大都市圏内部の人口動態の例として東京都内の世帯構成の変化を見ると、1995年から2000年の5年間に、総世帯数に対する単独世帯数の比率が38%から41%に増加してきている。また、単独世帯数内で高齢者(65歳以上)のいる世帯数の増加率は、46.8%と大きな値を示している。水供給から見れば、この種の世帯構成変化は、水供給インフラの整備方法、水質の安全性の考え方、水道料金体系のあり方に、および、さらには下水システム、住宅供給政策などへ影響する。
水環境、水供給以外の分野でも同様の課題は多い。人口増加に対応して社会的共通資本の量的供給を続ける必要があった時代は、社会の合意形成は相対的に容易であった。しかし、人口減少社会では、単純な量的供給の拡大が暗黙の了解事項でなくなる。さまざまな価値観に配慮した木目の細かな施策の提供が必要となる。これは行政分掌を超えた、あるいは、国と自治体との分担を超えた、各種施策の強い融合が求められていることを意味する。
(社)土木学会、平成14年11月発行



